2013年10月9日水曜日

VAIO Pro 11 分解 (日経より)

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薄型軽量の限界に挑戦、870gのノートPC実現技術 

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2013/10/9 7:00
ソニーは2013年6月に台湾で開かれたIT(情報技術)関連の展示会「COMPUTEX TAIPEI 2013」で、パソコン「VAIO」の2013年夏モデルのラインアップを発表した。そこで注目を浴びた製品の一つが、ノートパソコン「VAIO Pro 11」である(図1)。画面寸法11.6型のタッチパネル搭載品の場合、重さは870gと「同タイプの『Ultrabook』として世界最軽量」(ソニー)をうたう。折り畳み時の厚さもヒンジ部で17.2mm、手前側先端部で13.2mmと非常に薄い。今回、日経エレクトロニクス誌はこのタッチ対応品をソニーの技術者と共に分解し、薄型・軽量化と、本来のノートパソコンの各種機能をどのように両立させたかを検証した。
図1  今回分解したVAIO Pro 11。キーボードのLEDバックライトを点灯させた様子
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図1  今回分解したVAIO Pro 11。キーボードのLEDバックライトを点灯させた様子
 VAIO Pro 11の分解での最初の注目点が筐体(きょうたい)である(図2)。ソニーの技術者は、「今回の軽量化は、あらゆる部品・部材を設計し直した結果だが、最も効果的だったことを一つ挙げるなら、筐体の素材を『UDカーボン』にしたこと」だとする。
 このパソコンを折り畳んだ際の外側に面する筐体にUDカーボンを採用した。なお、キーボード上の筐体には、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)、タッチパッドの周辺にはアルミニウム合金を用いているという。
 「UDカーボン」はソニーが東レと共同開発した炭素繊維強化樹脂(CFRP)で、炭素繊維を一方向(UD:uni direction)にそろえて作製したUD CFRPのシートから成る。ソニーによれば、その比重はアルミ合金(A5052)の2分の1、曲げ弾性率は1.25倍(図2(c))という。仮に同じ面積の板で同じ曲げ強度を確保する場合、UD CFRPはアルミ合金に比べて、厚さを2割薄くでき、重さを6割軽くできることになる。
図2 筐体にUD CFRPを利用して強度の確保と軽量化を両立した。ディスプレイ側の筐体の様子(a~b)とUD CFRPと他の材料との比重と強度の違い(c)を示した。縦方向は、筐体の端を曲げることで強度を補強している
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図2 筐体にUD CFRPを利用して強度の確保と軽量化を両立した。ディスプレイ側の筐体の様子(a~b)とUD CFRPと他の材料との比重と強度の違い(c)を示した。縦方向は、筐体の端を曲げることで強度を補強している
 ソニーは実際には、そのUD CFRPシートの繊維の向きを「横方向と縦方向に交互に数枚重ねて筐体を作製した」とする。ただし、「最も外側のUD CFRPは繊維の向きが横方向のシートで、開閉時に必要な縦方向の強度がやや不足したため、筐体の短辺側の外周を折り曲げて縦方向の曲げ強度を高めた」(ソニーの技術者)とする。それがヒンジ部の形状が6角形に見える「ヘキサシェルデザイン」につながった。
■重さの2割は電池パック
 筐体を外して見えてきたのは、メインのプリント基板と、面積の6割超を占めるLi(リチウム)ポリマー2次電池の大きなパッケージである(図3)。4個の電池をまとめて1枚のパッケージにしたもので蓄電容量は32Wh、厚みは約3.5mmである。重さは178gで、パソコン全体の重さの約20%を占める[注]
図3  キーボードの下にある基板と電池パックの様子。電池パックは4個のLiポリマー2次電池をパッケージしたもので、厚さは約3.5mm、重さは178g。面積の2分の1以上、重さの5分の1を電池パックが占める
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図3  キーボードの下にある基板と電池パックの様子。電池パックは4個のLiポリマー2次電池をパッケージしたもので、厚さは約3.5mm、重さは178g。面積の2分の1以上、重さの5分の1を電池パックが占める
 このタイプの電池パックは、VAIOの薄型モデルでは以前から使われているが、「レイアウトに合わせて毎回設計を変えている」(ソニーの技術者)という。例えば、VAIO Pro 11では、音質を重視してやや大きなスピーカーを用いたが、電池パックはそのスピーカーとの重なりを避けるように形状を決めたという。
■基板を切り取って薄型化を実現
 プリント基板には、CPU(中央演算処理装置)やヒートパイプ、冷却ファン、そして主記憶となる16ビットのDDR3L SDRAM用チップが表裏に4個ずつ計8個、4Gバイト分が実装されている。
 さらに、記録容量128GバイトのシリアルATA(SATA)対応SSD(solid state drive)ストレージモジュール、そして無線LAN/Bluetooth(ブルートゥース)の無線モジュールなども搭載されている。「メインの基板は電池のスペースを確保するため、できるだけ横長になるように設計した」(ソニーの技術者)という。
 ストレージモジュールや無線モジュールには、米Intel(インテル)が提唱する新しいモジュール規格「M.2」に準拠したものを採用したが、これも「従来よりも細長く、しかも省面積を実現できるから」(同)という。
[注]他の主な部材の重さは、日経エレクトロニクス誌の測定で、液晶パネルが132gで全体の約15%、タッチパネルが97gで同11%である。電池と液晶パネル、タッチパネルという3部材だけで全体の重さの約47%を占めることになる。
 基板の厚さを薄くするためには、基板自体をカットすることにもためらいはなかった。具体的には、ストレージモジュールや無線モジュールがある位置には、基板に大きな穴を開け、背の高い受動部品や、パソコンの起動時に用いるRTC(real time clock)のサブバッテリー用の空間を確保した(図4)。
図4 裏から見たメイン基板とSDカードソケット用基板を示した。メイン基板には、厚い部品を収めるための穴がいくつかある。また、USB端子やSDカードソケットを収めるためにも、基板の一部を切除している
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図4 裏から見たメイン基板とSDカードソケット用基板を示した。メイン基板には、厚い部品を収めるための穴がいくつかある。また、USB端子やSDカードソケットを収めるためにも、基板の一部を切除している
 「パソコンの設計時にはまず、利用可能な厚さを決め、それに合うようにCAD(コンピューターによる設計)上で部品やその配置を選んだ」(ソニーの技術者)。今回のパソコンはヒンジ部が最も厚く、手前になるほど薄い「くさび型」(ソニー)となるように設計したため、設計上の厚さ制限は階段状になっているという。このため、パソコンの手前側に配置したSDカードソケットなどは、厚さ制限が最も厳しく、やはり基板を切り取ってソケットを埋め込んだとする。
■CPU周辺に配線見えず
図5 メイン基板からヒートパイプなどを外し、CPU周辺を拡大して示した。IntelのHaswellマイクロアーキテクチャに基づくCPUとI/OコントローラーICはMCM(multi-chip module)というモジュールになり、チップ間配線はすべて基板内に収められている
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図5 メイン基板からヒートパイプなどを外し、CPU周辺を拡大して示した。IntelのHaswellマイクロアーキテクチャに基づくCPUとI/OコントローラーICはMCM(multi-chip module)というモジュールになり、チップ間配線はすべて基板内に収められている
 VAIO Pro 11は、Intelの22ナノメートル世代トライゲート型トランジスターを用いた「Haswellマイクロアーキテクチャ」に基づくCPUをいち早く搭載したパソコンの一つである。同アーキテクチャは、CPUと、主記憶を制御するI/O(入出力)コントローラーを1枚のインターポーザー用基板上にまとめることで、MCM(multi-chip module)とする設計を採用している(図5)。
 この結果、CPUとチップセット間の接続はすべて基板内配線で済み、周辺の受動部品数も大きく減った。これが「基板の薄型化に大きな助けになった」(ソニーの技術者)という。
■薄型・軽量化が最優先ではない
 さまざまな薄型・軽量化の工夫が目立つVAIO Pro 11だが、ソニーは「薄型化、軽量化を最優先にしたわけではない」と強調する。利用者の使い勝手を高めるために、あえてそれらに反する選択をした部分もあるという。
 例えば、キーボードの各ボタンの厚さとボタンを押したときの押し幅(キーストロークの深さ)を厚くしたことだ。「最近の薄型パソコンでは1.2mmだったが、今回は1.4mmに増やした」(ソニーの技術者)。これで、入力などのミスが大きく減るとする。
 ただし、キーボード全体では従来と比べて厚さが増したわけではない。それは、キーボードの下にある、LED(発光ダイオード)バックライトの各部材を薄くしたからだ。「導光シートは従来の0.4~0.5mm厚から0.2mm厚に、LEDチップ自身も0.2mm厚と低背品で、フレキシブル基板に実装されているものを選んだ」(ソニーの技術者)という。
■頑丈さ確保に厚いガラスも
 パソコンのディスプレイ側にあるタッチパネルと一体になったカバーガラスを厚くしたことも、使い勝手を重視した結果だという(図6(a))。ソニーは最近の機種では0.55mm厚のガラス板を使っていたが、今回はあえて約36%厚い0.75mm厚のガラス板を用いたという。
図6 ディスプレイ側の部材を示した。タッチパネルはカバーガラスを兼ねている(a)。液晶パネルは、フレームの中でネジなどでは固定されておらず、クッションを介してわずかに動くようになっている(b~c)。LEDドライバーICは液晶パネルの外にあるが、LEDチップと液晶ディスプレイのドライバーICはパネルの外周にCOG(chip on glass)技術で実装されている
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図6 ディスプレイ側の部材を示した。タッチパネルはカバーガラスを兼ねている(a)。液晶パネルは、フレームの中でネジなどでは固定されておらず、クッションを介してわずかに動くようになっている(b~c)。LEDドライバーICは液晶パネルの外にあるが、LEDチップと液晶ディスプレイのドライバーICはパネルの外周にCOG(chip on glass)技術で実装されている
 厚くなった分はわずかだが、軽量化という目的にはやや反する選択になった。タッチパネルでは、そのガラスの重さがパネル全体の重さを左右するからだ。
 日経エレクトロニクス誌の測定では、タッチパネルの重さは約97g。VAIO Pro 11には、タッチ対応品と非対応品がある。非対応品の重さは730gと、タッチ対応品に比べて100gも軽い。その差の大部分は、タッチパネル、特にガラス板の重さから来ている。ガラスが36%も厚くなれば、それだけで30g前後重くなったと推定できる。
 ソニーによれば、ガラス板を厚くしたのは、頑丈さを重視したからだ。「今回の製品は、ビジネスユースを主に想定した。満員電車に乗れば、カバンが押しつぶされて、パソコンに大きな力がかかることがある。ディスプレイがむき出しのタブレット端末もある中で、今回のようなクラムシェル型のノートパソコンを選ぶ利用者は、頑丈さを期待しているはずだ」(ソニーの技術者)。
 頑丈さを確保する工夫は、液晶パネルでも見受けられる(図6(b~c))。液晶パネルは、それを収めるアルミニウム合金フレームの中で直接ネジなどでは固定されず、多少動くようになっているのである。液晶パネルの周囲にはクッションが貼ってあり、フレームが多少歪んだり、パソコンを落としても、液晶パネルが影響を受けにくくなっている。
 液晶パネルは、ガラス板上に直接液晶のドライバーIC(集積回路)のベアチップを実装するCOG(chip on glass)技術を用いて作製されている。これで、ドライバーICを実装する基板が不要となり、同パネルの省面積化と軽量化にも貢献したようだ。
(日経エレクトロニクス 野澤哲生)

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